東京地方裁判所 平成7年(ワ)18823号 判決 1997年12月09日
原告
川渕洋子
ほか二名
被告
株式会社中島運送
ほか一名
主文
一 被告らは、各自、原告川渕洋子に対し、金六八九万七五三一円、原告川渕達也、原告川渕寛明に対し、各金三四四万八七六五円及びこれらに対する平成六年六月一一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告らの負担とし、その余は原告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、各自、原告川渕洋子(以下「原告洋子」という。)に対し、金一億〇七九一万九八七二円、原告川渕達也、原告川渕寛明(以下、それぞれ「原告達也」、「原告寛明」という。)に対し、各金五一七五万九九三五円、及びこれらに対する平成六年六月一一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用の被告らの負担及び仮執行宣言
第二事案の概要
一 本件は、交通事故により死亡した被害者の遺族である原告らが被告に対し、損害賠償を請求した事案である。
二 争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実(以下「争いのない事実等」という。)
1 本件交通事故の発生
訴外川渕利夫(昭和一九年一一月二四日生。以下「利夫」という。)は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)に遭い平成六年六月一一日午前四時三一分頸椎骨折により死亡した(当時四九歳。甲一)。
事故の日時 平成六年六月一一日午前四時ころ
事故の場所 千葉県船橋市小室町九〇二番地先国道一六号線路上(別紙交通事故現場見取図参照。以下、同道路を「本件道路」といい、同図面を「別紙図面」という。)
加害車両 事業用普通貨物自動車(足立八八あ九〇七九。二トン冷凍車いすゞエルフ。乙五、一〇)
右運転者 被告大柴文夫(以下「被告大柴」という。)
事故の態様 利夫が本件道路を横断中、右方から直進進行してきた加害車両が衝突した。事故の詳細については、当事者間に争いがある。
2 責任原因
被告大柴は、前方を注視し、適切な速度で進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然時速八〇キロメートルを超える速度で進行した過失により、本件事故を引き起こしたものであるから、民法七〇九条に基づき、利夫及び原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
被告株式会社中島運送(以下「被告会社」という。)は、加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから自賠法三条に基づき、利夫及び原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
3 納津美と原告らの関係等
原告洋子は、利夫の夫であり、原告達也、原告寛明は、いずれも利夫の子である(甲一)。
原告らは、法定相続分に従い、利夫の被告らに対する本件事故による不法行為に基づく損害賠償請求権を原告洋子は二分の一、原告達也、原告寛明は各四分の一ずつ相続した。
4 損害の一部填補
原告らは、自賠責保険から三〇〇四万〇七三〇円の填補を受けた。
三 本件の争点
本件の争点は、本件事故の態様と原告らの損害額である。
1 本件事故の態様
(一) 被告の主張
本件道路は自動車専用道路であり、本件事故は、利夫が酔余の上、幹線道路の歩行者横断禁止場所を加害車両の直前に横断する過失により発生したものである。
原告らの損害額を算定するに当たっては、利夫の右過失を少なくとも五〇パーセント程度斟酌すべきである。
(二) 原告の認否
本件道路が自動車専用道路であるとする点は、否認する。
2 原告らの損害額
(一) 原告らの主張
(1) 葬儀費用(原告洋子) 四〇〇万〇〇〇〇円
(2) 逸失利益(利夫) 一億三八二一万七九五〇円
利夫は、本件事故当時、鮒与の屋号で鰻店を経営しており、本件事故前の三年間に平均一四〇〇万円の収入を得ていたものであり、本件事故に遭わなければ、今後七〇歳までの二一年間少なくとも右と同額の収入を得ることができたと推認されるので、右金額を基礎とし、生活費を三〇パーセント控除して、死亡時の逸失利益の現価を新ホフマン方式により算定すると、前記金額となる。
仮に、本件事故当時の利夫の右収入額が認められないとしても、鮒与の本件事故前三年間の売上金額は、平均三五三四万五八三三円であり、右売上に対する標準所得率が三五・五パーセントであり、利夫の寄与率が七〇パーセントを下らないから、利夫の収入は、八七八万三四四〇円を下回ることはないというべきである。
(3) 慰謝料 合計五〇〇〇万〇〇〇〇円
利夫分 三〇〇〇万〇〇〇〇円
原告洋子分 一〇〇〇万〇〇〇〇円
原告達也、原告寛明分 各五〇〇万〇〇〇〇円
(4) 弁護士費用 合計一九二二万一七九三円
(二) 被告の認否及び反論
原告の損害額、とりわけ利夫の逸失利益については、争う。
利夫の本件事故当時の収入額を算定するに当たっては、青色申告決算書がある以上、これによるべきである。
第三争点に対する判断
一 本件事故の態様(過失相殺)について
1 前記争いのない事実等に、乙一ないし一四、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 本件事故現場付近の状況は、概ね別紙図面に記載のとおりである。
本件道路(国道一六号線)は、千葉県印旛郡白井町から同県船橋市小野田町に向かう片側二車線(第一車線、第二車線とも幅員三・五メートル)の道路であり、対向車線とは幅約一・〇メートル、高さ約〇・二メートルの中央分離帯により区分され、その外側には北側に四・七メートル、南側に三・五メートルの外側線が設置されているほか、その両側に幅約五・八メートルのグリーンベルトが設けられ、車道にはガードレールが設置されている。
本件道路は、最高速度が毎時五〇キロメートルに制限されているほか、駐車禁止の規制がされている。
本件道路の照明は、両側の歩道上に水銀灯が設置されているが、薄暗い。
本件道路の路面は、アスファルトで舗装され、平坦な道路であり、本件事故当時、乾燥していた。
本件道路は、直線であり、見通しを妨げるものはなく、前方及び後方の見通しは良好である。
本件事故後、本件道路の路面には、長さ五〇メートルのスリップ痕と長さ三八・五メートルのスリップ痕が二箇所印象されていた。
(二) 利夫は、身長一七八センチメートル、体重約八八キログラムのがっしりした体格であり、本件事故当時の着衣は、紺色トレーナー、紺色ジーンズに黒っぽい野球帽を被っていた。
利夫は、本件事故前日の平成六年六月一〇日午後八時過ぎに妻の原告洋子にちょっと出かけてくる、すぐ帰ってくると言い残して一人で普通乗用自動車(練馬五七ろ四三四四。以下「利夫車両」という。)を運転して、自宅を出た。利夫車両は、本件事故の前からエンジンの調子が悪く、利夫もそのことを気にしていた。
利夫が本件事故現場に行った理由は、家人にもわからなかったが、本件事故の当日も営業日であり、利夫は午前六時までに帰宅するはずであった。
利夫は、本件事故日の六月一一日午前零時三〇分ころ、千葉県船橋市小室町三一〇九番地一所在のレストラン「デニーズ千葉ニュータウン店」に入り、ビール中ジョッキ(四〇〇シーシー)二杯を注文し、午前一時ころ、同店を出たが、午前三時過ぎころ、利夫車両が故障したと言って再び同店を訪れ、午前三時四五分ころ、同店を出るまでの間にビール中ジョッキ一杯と赤ワイン(一六〇シーシー)一杯を飲んだ。利夫は、同店を出る際、店の者に対し、利夫車両の修理を呼んでいる、店の前に駐車して、車内で寝ていると言い残していた。
(三) 被告大柴は、本件道路を仕事でいつも通行しており、道路の状況はよく知っていた。
被告大柴は、本件事故当日、千葉県八千代市内の配送センターにおいて荷物を積むため、加害車両を運転し(前照灯は下向き)、本件道路の第二車線を同県印旛郡白井町方面から船橋市小野田町方面に向かい、時速約九〇キロメートルで進行中、別紙図面の<2>地点において、同図面の<ア>地点に本件道路を横断中の利夫を発見し、直ちに急制動したが間に合わず、同図面の<×>地点(被告大柴は、<3>地点)において、加害車両の左前面部が利夫と衝突し、加害車両は、同図面の<4>地点に停車し、利夫は、<イ>地点に転倒した。
被告大柴は、目的地に近づいており、先を急いでいた。
加害車両は、前照灯下向きで二二・四メートル前方の、前照灯上向きで四四・九メートル前方の人を認識することができる。
2 右の事実をもとにして、本件事故の態様について検討するに、本件事故は、夜間、幹線道路を横断中の歩行者と四輪車との事故であるが、被告大柴は、制限速度を四〇キロメートル上回る速度で進行していたものであり、仮に、被告大柴が制限速度を遵守し、前照灯を上向にした上、進路前方を注視して進行していれば、利夫の発見後、衝突に至らずに停止できたものと認められるから、この点に過失がある。
他方、利夫としても、本件道路について横断禁止の規制こそされていないものの、視認しにくい着衣の上、夜間の国道を左右の安全を十分確認しないまま(前認定のとおり加害車両は前照灯を点灯させており、利夫が加害車両の存在を認識することは容易である。)、漫然その直前を横断した点に過失がある。
そして、利夫、被告大柴双方の過失を対比すると、その割合は、利夫三〇、被告大柴七〇とするのが相当である。
二 原告らの損害額
(一) 葬儀費用(原告洋子分) 一五〇万〇〇〇〇円
前記争いのない事実等に、甲八、弁論の全趣旨によれば、本件事故により利夫が死亡したため、原告洋子が利夫の葬儀を主催し、その費用を支出したことが認められるが、このうち、本件事故と相当因果関係のある損害として被告らに負担させるべき金額としては、一五〇万円と認めるのが相当である。
(二) 逸失利益(利夫分) 三三四〇万八二七六円
甲一ないし五、八、乙九によれば、次の事実が認められる。
利夫は、日本大学芸術学部を卒業後、本件事故当時、肩書住所地において、鰻店「鮒与」を経営し、妻の原告洋子、長男の原告達也(平成六年一月五日婚姻)、同人の妻隆子とともに稼働していたものであるが(なお、二男原告寛明は、専門学校を卒業後、ホテルで板前の見習いをしていた。)、利夫の本件事故前の所得は、平成三年度が四九六万八五一二円、平成四年度が五〇五万七九六六円、平成六年度が三〇〇万二一五五円であり(三年間の平均四三四万二八七七円。一円未満切捨て)、本件事故に遭わなければ、今後七〇歳(甲八によれば、利夫の父川渕與市は、七九歳まで鰻職人として稼働していたことが認められ、右によれば、利夫についても、一般の稼働年齢の終期である六七歳を超えて七〇歳程度まで稼働できたものと推認される。)までの二一年間少なくとも右平均所得額と同額の収入を得ることができたと推認されるので、右金額を基礎とし、生活費を四〇パーセント控除して(前認定事実によれば、利夫の扶養家族は、妻の原告洋子一名と認められる。)、死亡時の逸失利益の現価をライプニッツ方式により算定すると、次式のとおり、三三四〇万八二七六円(一円未満切捨て)となる。
なお、事業所得者について青色申告決算書が存在する以上、これと異なる内容の所得を推認することは相当でない。
4,342,877円×(1-0.4)×12.8211=33,408,276円
(三) 慰謝料 合計二六〇〇万〇〇〇〇円
本件事故の態様、利夫死亡の結果、利夫が原告ら一家の支柱であったこと、その他本件に顕れた一切の事情を斟酌すると、利夫及び各原告らの慰謝料としては、次の金額と認めるのが相当である。
利夫分 二〇〇〇万〇〇〇〇円
原告洋子分 四〇〇万〇〇〇〇円
原告達也、原告寛明分 各一〇〇万〇〇〇〇円
(四) 右合計 六〇九〇万八二七六円
三 過失相殺
前記二記載の過失割合に従い、原告らの損害額から三〇パーセントを減額すると(原告らについては、利夫の過失を被害者側の過失として斟酌する。)、残額は、四二六三万五七九三円となる。
四 損害の填補
原告らが自賠責保険から合計三〇〇四万〇七三〇円の填補を受けたことは、当事者間に争いがないから、右填補後の原告らの損害額は、合計一二五九万五〇六三円となる。
原告洋子分 六二九万七五三一円
原告達也、原告寛明分 各三一四万八七六五円
五 弁護士費用
本件事案の内容、審理経過及び認容額、その他諸般の事情を総合すると、原告らの本件訴訟追行に要した弁護士費用としては、原告洋子分として六〇万円、原告達也、原告寛明分として各三〇万円と認めるのが相当である。
六 認容額
原告洋子分 六八九万七五三一円
原告達也、原告寛明分 各三四四万八七六五円
第四結語
以上によれば、原告らの本件請求は、原告洋子につき六八九万七五三一円、原告達也、原告寛明につき各三四四万八七六五円、及びこれらに対する本件事故の日である平成六年六月一一日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項本文を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 河田泰常)
交通事故現場見取図